2014年3月20日木曜日

【スミソニアン誌】#チェルノブイリ☢惨事で森林腐食に異変が…

  チェルノブイリの悪名高い赤い森の倒木。写真:T.A.Mousseau & A.P. Møller

チェルノブイリ周辺で森林腐食に異変が…
Forests Around Chernobyl Aren’t Decaying Properly
チェルノブイリの放射線被曝で、人間、動物、樹木のみならず、昆虫、微生物、菌類も影響を受けていた。
レイチェル・ニュワー Rachel Nuwer
smithsonianmag.com 2014314
チェルノブイリ原発が爆発し、未曾有の核惨事を引き起こしてから、30年近くの時が流れた。しかし、その破局的惨事の影響はいまだに感じられる。グラウンド・ゼロを取り巻く広大な立ち入り禁止区域では、住む人間がいなくとも、動物たちと植物はいまだに放射性毒物の徴候を示している。
チェルノブイリ周辺の鳥類は、放射性毒物にさらされていない地域の鳥類に比べて、かなり小さな脳を有している。樹木の成長が遅い。クモ類と昆虫類――蜂、蝶、バッタなど――の生息数が少ない。おまけに、立ち入り禁止区域の外側で捕らえられた――ドイツほど遠く離れた地で捕獲されたものも含めて――イノシシなどの狩猟動物は、いまだに異常で危険なレベルの放射能の影響を示している。
だが、環境のなかでは、さらにもっと基本的な事象が進行している。Oecologia誌掲載の新研究によれば、分解者――腐食プロセスを推進する、微生物、菌類、ある種の昆虫といった生物――もまた汚染の影響をこうむっている。これらの生物は、いかなる生態系においても基本的な構成要素としての役割を担っており、有機物を土壌に還元している。論文の著者らが考えるに、このように基本的なレベルのプロセスにおける事象は、生態系全体に対して複合的な影響をおよぼしえたはずである。
研究チームは、一つには特異な野外観察結果を得たことから、この疑問を吟味することを決定した。「われわれは1991年からチェルノブイリで調査を実施し、やがて散乱物がかなり蓄積していることに気づいた」と著者らは書く。さらにまた、悪名高い「赤い森」――事故のあと、松の木がすべて赤く変色し、速やかに枯れ死んでしまった地域――の木樹は、メルトダウンから15ないし20年たっても、腐食していないようだった。
「わたしたちが枯れ死んだ木樹に初めて出くわしたとき、少数の蟻は別ですが、その幹の大部分は無傷のままでした」と、米コロンビア州サウス・カロライナ大学の生物学者で論文の主筆、ティモシー・ムソーはいう。「わたしの居住地の森林では、10年も地面に横たわっている倒木の大部分が粉々になることを考えれば、あれは驚くべきことでした」 
ムソーと研究仲間たちは、森林の床に枯葉の堆積が一見して増大していること、そして松の木が石化したように見えることが、もっと大掛かりななにかを示唆しているのではと考え、ある種の野外実験を実施することを決定した。立ち入り禁止区域内のさまざまな地点で枯葉残存物を測定すると、放射能毒性が最大であるチェルノブイリの「最高レベル」汚染地域において、残存物層そのものが2ないし3倍も厚いことがわかった。だが、これだけでは、この違いが放射能のせいであることを証明するには不足だった。
彼らは予想を確認するために、小さな網袋を600枚ばかり作成し、非汚染地点で収集した4種の樹木、カシ、カエデ、カバ、マツのなかから一種ずつの葉を、それに詰めこんだ。当初から袋のなかに昆虫がいないか、手間をかけて確かめてから、半分の袋に外部から虫が侵入しないように婦人用パンティストッキング生地で裏打ちをかけ、広い網目の袋と区別した。
  チェルノブイリ立ち入り禁止区域のいたるところに枯葉袋を配置するムソー。写真: Gennadi Milinevsky

そのうえで彼らは復活祭の卵をあさる分解者よろしく、(まったくの非汚染地点を含め)多様な程度の放射能汚染を示す、立ち入り禁止区域の数多くの地点にその袋を配置してまわった。彼らはそのまま袋を放置し、1年近く待った――順当なら、微生物、菌類、昆虫が死んだ有機物を片付けるのに十分な時間であり、パンティストッキング生地で裏打ちした袋が、昆虫と微生物のどちらが主として枯葉の分解の担い手であるかを見極めるのに役立つはずだった。
結果は明確だった。放射能のない地域では、1年後に枯葉の70ないし90パーセントが消失していた。だが、放射能が存在する地域の枯葉は、当初の重量の60パーセント内外を保持していた。パンティストッキング生地で裏打ちした袋と比較することによって、昆虫類が枯葉の除去に相当な役割を担っているが、微生物と菌類がずっと重要な役割を担っていることがわかった。彼らはとても多くのさまざまな地点にとても多くの袋を配置したので、湿度、気温、森林・土壌タイプといった外的要因を照合することによって、放射線レベルを措いて、枯葉の分解に対して影響を与える要因がないことを確認することができた。
「わたしたちが得た結果の要点をいえば、土壌表層にある枯葉残存物の微生物分解を放射線が妨げていたということです」とムソーはいう。これは、栄養素が効率的に土壌に還元されないことを意味しており、チェルノブイリ周辺の樹木の成長が遅くなっていることの原因の一つになっているのかもしれないと、彼は付言した。
*印は枯葉袋の配置地点を示す。色分けは放射能レベル区分。図: Mousseau et al., Oecologia
ほかの研究によって、チェルノブイリ地域が火災の危険にあることがわかっており、ムソーと彼の研究仲間は、27年間分の枯葉残存物がそのような森林火災に格好の燃料源になりうるだろうと考えている。このことは、単なる環境破壊にとどまらずに憂慮すべき問題を投げかけている。火災は立ち入り禁止区域の外の場所に放射能汚染を再分配しかねないと、ムソーはいう。「今後数年のうちに破滅的な火災が発生するのではと心配が募ります」
目下のところ残念なことに、立ち入り禁止区域に最大限の注意を払って、いかなる火災も速やかな消火を試みること以外に、明白な解決策は手中にない。研究者らは日本でも研究チームと協力して、フクシマでも同じような微生物死滅地帯の出現をこうむっているか否かを確認しようとしている。 
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【筆者】 Rachel Nuwer
レイチェル・ニュワーはSmart News記者であり、Smithsonian.comに科学記事を投稿。ブルックリン在住のフリーランス科学ライター。



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