2013年8月28日水曜日

【海外論調】アラスカのジュノー・エムパイア.com、海洋の放射能汚染を論じる

世界はフクシマ放射能汚染水の海洋ダダ漏れをどのように見て、どのように懸念しているのか…昨日の「BBCニュース:フクシマの放射能汚染水漏出」につづいて、アラスカの州都、ジュノーの新聞記事オンライン版を訳出します。
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ジュノー・エムパイア.com
[訳注]ジュノーJuneauは、アラスカ州の州都。人口は31118人(2004年推計)


エムパイア論説:
フクシマはアラスカ最大の貴重な資源を汚染しているのか?
Empire Editorial:
2013825日掲載

今週、まだ事故が収束していない福島第1原発からの汚染水漏れのニュースがヘッドラインに踊った。貯水タンクのひとつが漏出事故を起こし、太平洋からフットボール競技場1面分の長さを離れただけの区域に大量の有害な廃水を流したのだ。
日本の当局者たちが、もはや事態はあまりにも重大であると発言した。彼らには国際的な支援が必要である。
2年以上前の地震とそれにつづく津波から継続して、少しずつ漏れていたのではないかという憶測がある。100パーセントの確認はされていない。証拠はまだ決定的でないという人が多い。
それでも、懸念は残る。
本稿執筆のための調査のさい、たまたま米国海洋大気庁(NOAA)が20117月に作成した画像が見つかった。日本と日本近海の太平洋を示した放射能汚染海水影響マップである。核廃棄物が、まるで森林火災の煙霧がたなびいているかのように、フクシマ原発サイトから西方の太平洋に伸びているのがわかる。NOAAが作成した2番目のマップは、1年近く後のもので、汚染海域は元の規模の2倍近くに拡大している。

[参照ビデオ]YouTube


この有害物質が海洋生物を汚染し、アラスカに向かっているのではないか、心配である。
世界の海洋の潮流は複雑である。だが一般的にいって、ふたつの表層流――ひとつは南からの黒潮、もうひとつは北からの親潮――が、北緯40度あたり、日本のすぐ沖合で出会っている。黒潮と親潮が合流して北太平洋海流となり、東へと向かう。フクシマは北緯37度に位置する。海流は何千マイルか先で、アメリカ西岸すぐ沖合の湧昇流にぶつかり、ふたつに分かれる。そのひとつ、アラスカ海流は北に向かい、ブリティッシュ・コロンビアとアラスカ南東部沿岸を流れる。もうひとつ、カリフォルニア海流は南に向かい、アメリカの西海岸線にそって流れる。
太平洋鮭の回遊経路も考慮に入れるべきだ。簡潔にいえば、われわれの鮭はアラスカ海流に乗って、シトカヤクタットコディアック、アリューシャン列島を経由しながら回遊する。ほとんどの場合、マスノスケ紅鮭であり、最大範囲の海域を回遊する。白鮭カラフトマスは生まれた川の近隣海域にとどまるようだ。どれほど遠くまで回遊するかにかかわらず、それぞれの種別の鮭は太平洋に乗り出し、それぞれの魚は北太平洋海流に乗って、故郷の川と産卵場に帰ってくるのであり、その同じ海流が核廃棄物を東へ運んでくるのである。

[参照画像]気象庁「3.4.2 海洋の循環の変動」より

われわれはみな、核廃棄物による過剰な被曝が癌の病因になることを知っている。いわゆる廃棄物に含まれる、セシウム137、ストロンチウム9など、特定の化学物質が魚体に取り込まれ、骨や筋肉に永久に蓄積することを理解する人も多い。
われわれは、アラスカの鮭が核廃棄物で徐々に汚染されることを懸念している。われわれの海産物に、とりわけそれを消費する人びとに、この廃棄物の影響がおよぶのではと心配である。
それに、われわれだけではない。マサチューセッツ州、ウッズホール海洋学研究所(WHOI)上席科学者であり、海洋放射能の世界的権威、ケン・ビューセラー博士(ブログ内参照記事)など、ほかの科学者たちも、魚類に対するフクシマの影響に注目している。博士の研究班は、日本の海岸線から400マイル沖合までの放射能を追跡した。研究班の測定値は、いまのところ人間や海洋生物にリスクをおよぼすほどではないという。
これは幸先のよい徴候である。だが、以前のチェルノブイリに関する科学者らの言動が、後になって悪影響の大幅な過小評価であると判明したことを忘れてはならない。
最近、この件に関してCNNに書いたビューセラーが懸念するのは、損傷した原発からの放射能レベルが低減していないことである。反対に、増大している。その記事で博士は、世界の指導層が協力して、この問題を解決するための確かな行動計画を確定しなければならないと訴えた。
日本が支援を求めるのは、グッドニュースである。また、この件がふたたび脚光を浴びるのも喜ばしいことだ。
われわれはアラスカの科学者たちが率先して調査を実施し、われわれのサケ目魚類を測定することを訴える。また、科学者らが研究結果について発言することを切望する。われわれの鮭を食べても安全だと100パーセント保証しようではないか。確かなことさえわかれば、この貴重な資源の重要性と高評価を強化するのみである。

2013年8月27日火曜日

【海外論調】BBCニュース:フクシマの放射能汚染水漏出

放射能に汚染された地下水の海への流出と高レベル汚染水のタンク漏れは連日のように報道されはしていますが、もはや事故当事者の東京電力の手に負えないようです。原子力規制庁が関与を表明し、菅官房長官が予備費の流用を明言しましたが、肝心の安倍首相がトップセールス外交に勤しむなど、国として全力をあげて事態に対処する姿勢は疑問であるといわざるをえません。
目下の緊急事態を海外メディアはどのように報道しているでしょうか? ここにBBCニュースのオンライン記事を緊急に翻訳して紹介します。
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BBCニュース 2013822
フクシマの汚染水漏出は
「われわれが信じこまされてきたことよりもずっと深刻」

Fukushima leak is 'much worse than we were led to believe'


マット・マックグラス BBCニュース環境通信員
By Matt McGrath
 Environment correspondent, BBC News

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ルパート・ウィングフィールド=ヘイズ
フクシマ汚染水の水源からレポート:
わたしがいまいる、この地点は山から半分ほど下った場所ですが、ここに東京電力が福島第1原発で直面している大問題が存在しています。というのも、わたしの後ろ、この谷をまっすぐ下って8km先に福島第1原発の白い排気塔と建屋をはっきり目視できます。これは基本的な物理学です。山に降る雨水は丘陵を流れ下り、海に向かいます。そのまさしく道筋に福島第1原発があります。だから、膨大な量の地下水が原子炉建屋の底部の流れこみ、汚染され、さらに海へと移動するのです。

核の専門家は、現在のフクシマ汚染水漏出は当局の説明よりもずっと深刻と信じているとBBCに語った。
マイクル・シュナイダーは、かつてフランス、ドイツ両政府に助言していた独立コンサルタントである。
シュナイダーによれば、敷地のいたるところから水が漏れており、放射能レベルの正確な数値はわからない。
一方、日本の核行政当局の長は、さらなる漏出を恐れているといった。
最近になって、東京電力株式会社(東電)が原発サイト内の貯蔵タンクからの高レベル放射能汚染水・約300トンの漏出を認めて、進行中の課題が膨れあがった。
危機のとき
日本の原子力規制当局は、原子力事故の深刻度を評価する国際尺度である事象レベルを1から3に引き上げた。
これは、原発が2011年の津波のあとに相次いだ原子炉メルタダウン以来で最大の危機にあることを認定するものだった。
だが、問題は東電や日本政府が認めようとするよりも相当に深刻なのではないかと懸念する核専門家たちもいる。
専門家たちは、炉心冷却に用いられ、敷地内で保管されている汚染水の量の膨大さを心配しているのである。
水の保管のために約1,000基のタンクが建造されている。だが、容量の85%内外がすでに使用され、さらに毎日400トンの水が加わるのだ。
「彼らが扱っている水の量は、まったくもって膨大です」と、核問題に関してさまざまな団体や諸国のコンサルタントを幅広く務めてきたマイクル・シュナイダーはいう。
「さらに深刻なことに、いたるところで水が漏出しています――タンクからだけではありません。地階層から漏出し、あらゆる場所の裂け目から漏出しています。量を測定できるものはいません」
過去2年間のタンクの増加ぶりを示す衛星画像。原子炉冷却に用いられて汚染された水を保管している。
「われわれが信じこまされてきたことよりもずっと深刻、ずっと深刻なのです」と、『世界核産業現状報告』)の前文著者であるシュナイダー氏はいう。
日本の原子力規制当局の田中俊一委員長は記者会見で、さらに漏出するのではないかと恐れているといって、シュナイダー氏の懸念を裏付けた。
「一つ起これば、そういうことが起こることを前提にして注意深く対応する必要がある。無為に過ごす時間がない状況だ」と、田中委員長は記者団に語った。
水の状況にまつわる透明性の欠如のため、また東京電力が水の海中漏出を否定しようとしつづけたために、多くの研究者らはイラついている。
ケン・ビューセラー博士はウッズホール海洋学研究所の上席科学者であり、フクシマ周辺の海域を調査してきた。
「これは断然のこと、まだ収束していません。チェルノブイリは多くの意味で1周間の火災・爆発事象であり、海に関わる可能性とは無縁でした。
「われわれは2011年からずっと、建屋であれ、地下水であれ、あるいは新たなタンクの漏れであれ、原発サイトから漏出しているといってきました。敷地内の放射能汚染水のすべてを本当に閉じこめる方法はありません。
「汚染水が地下水に流入すれば、海に注ぐ川と同じで、地下水の流れを本当に止めることはできません。水を汲み上げることはできますが、いくつのタンクを敷地内に造りつづけることができるでしょうか?」
また何人かの科学者たちは、敷地内に貯蔵されている莫大な量の水の新たな地震に対する無防備ぶりについて、懸念の声をあげた。
貯蔵タンクからの漏出水が地下水まで浸透し、ついで海に流入する。海水汚染を防止するために化学剤による防壁を用いる企ては無益だった。
新たな健康不安
貯蔵問題は、周辺の丘陵から流れ降りてくる地下水の流入によって厄介になっている。地下水は原子炉の底部から漏れる放射能汚染水と混じりあい、流れをせき止めようとする東電の最善の努力にもかかわらず、一部は海中に浸出する。
水に含まれるセシウムなど、放射性元素の一部は地中で濾過される。他のものは通り抜けてしまい、これが、見守っている専門家らを懸念させる。
「われわれの目下最大の懸念は、ストロンチウム90といった、ほかのアイソトープの一部が移動しやすく、地下水層の堆積層を通り抜けることです」とビューセラー博士はいった。
「放射性アイソトープは、海産食品に蓄積し、新たな健康不安を引き起こすほどのレベルで海洋へと流入しています」
敷地内の冷却水プールで冷却され、貯蔵されている使用済み核燃料棒についてもまた、懸念される。マイクル・シュナイダーは、チェルノブイリの爆発のさいに放出されたものより、はるかに大量の放射性セシウムをこうした核燃料が含んでいるという。
「使用済燃料プールの壁に割れ目がないという保証は金輪際ありません。塩水が浸透すると、鉄筋は腐蝕するでしょう。腐蝕は基本的に壁を破裂させますが、それを見ることができません。プールにじゅうぶん近づけないのです」と彼はいった。
フクシマの「深刻化する状況」が日本の元スイス駐在大使を駆りたて、東京がオリンピック開催招致活動から撤退を要求させることになった。
村田光平氏は国連事務総長あて書簡で、東電発表の公式放射線測定値は信用できないという。日本および海外における危機感の欠如に極度の憂慮を覚えると彼はいう。
マイクル・シュナイダーも彼の見解を共有しており、フクシマのための国際特別委員会の創設を呼びかけている。
「日本人は問題を抱え、支援を求めています。これは大失策でした。日本人には支援が切実に必要なのです」
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2013年8月7日水曜日

【海外論調】東京電力の闇のなかで

アジア太平洋ジャーナル:ジャパン・フォーカス
アジア太平洋…そして世界を形成する諸勢力の批判的深層分析

アジア太平洋ジャーナル Vol. 11, Issue 30, No. 3 201385
東京電力の闇のなかで――核エネルギーがこうむるフクシマの遺産
In the Dark With Tepco: Fukushimas Legacy for Nuclear Power
アンドリュー・デウィット
Andrew DeWit
フクシマの悲しい大河物語は、繰り返される無能と錯乱が露見しながら、まだ続く。最近では、730日付けロイター記事が詳しく報じているように、説明できないままに蒸気が排出し、信頼できる対処策に欠けているまま、1日あたり400トンの地下水が流入している。幾十年も続くことになる、この危機に対して、明らかに東京電力には必要な資源を投入する能力も意志もない。国連大学の研究フェロー、クリストファー・ハブソンがジャパン・タイムズで論じるように、唯一の解決策は政府が肩代わりすることである。
東京電力は生き残りに必死である。日本一嫌われる企業――それに、世界核ビジネスのお荷物――同社は最近、安全キャンペーンの監督役として、2004年から10年まで英国原子力公社の会長を務め、いまも名誉会長である英国系アメリカ婦人、バーバラ・ジャッジを雇った。東京電力の新しい顔を据えることになる、この外人女性の雇入れは、7月はじめに発表された。だが、こうした攻めの広報活動をもってしても、放射能汚染水の海中流出という真相にまつわる東京電力の慎重姿勢はおしまいにならなかった。証拠が積み上がり、原子力規制庁を含む批判の大合唱を浴びても、東京電力は何か月にもわたり流出を否定していた。規制庁は明らかに718日には流出を確認していた。
広瀬直己東電社長と同席する
バーバラ・ジャッジ
だが東京電力は、案の定、721日の参議院選挙の結果が判明するまで、この情報を公的に公表するのを控えていたようだ。
もっといえば、以下の記事が際だたせるように、昨年12月以来のロイター通信による調査によれば、東京電力は、廃炉や除染のさまざまな側面に関する海外の実務専門知識の活用を、せいぜいのところ、限られた範囲でしか図ってこなかった。だから、ジャッジ夫人の配属は――しゃれた表現を借用すれば――実に豚に口紅と見受けられる。
核推進派から聞こえてくる言説のひとつは、福島第1原発の原子炉は旧式であり、東京電力が同社の柏崎刈羽原発の修理に資源を集中しているあいだ、ドル箱として操業していたので、ろくに保守管理されていなかったというもの。よって、フクシマに見る最近の無能ぶりは似たり寄ったりと了解してもよいだろう。柏崎刈羽の原子炉7基は世界最大の原子力発電所を構成しており、2007年の中越沖地震で操業を停止していた。地震は火災と放射能漏れを引き起こし、7基の原子炉に深刻な損傷を与えた。フクシマ事故前にも、東京電力は同原発の操業復帰に執心していたが、いまや、同社の採算性回復見通しは、全面的ではなくとも、少なくとも同原発の発電容量の一部を再起動することにかかっている。
じっさい、短命な民主党政権によって20127月になされた公共事業体の部分的国有化は、20133月に柏崎刈羽原発の一部を再起動することを前提としていた。運転再開の公算が銀行団による公共事業融資を働きかけるための経営健全性保証となっていた。
柏崎刈羽原発
別の角度から見ると、福島第1原発における東京電力のペテンはなおさらのこと途方もない。第一、柏崎刈羽原発の再稼働には泉田裕彦・新潟県知事が反対したままであり、この件に関し、東京電力は知事に政治力と信頼性をそっくり丸投げしてしまっている。
さらに、再稼働は地震帯の調査を含む安全検査を条件としている。日本の規制庁はスタッフが限られ、検査官3チームに約80名がいるだけである。規制庁は、電力4社が再稼働を申請した5原発10基の検査にこれまで以上の慎重姿勢で臨んでいるうえに、いま福島第1に乏しい資源を集中することを余儀なくされている。この検査は、1基あたり数か月かかると予想されている。東京電力(および他の電力)の抱える問題を悪化しているのが、2011311日の東日本マグニチュード9.0大地震を中心とする一連の大規模な地震活動によって、日本の抱える地震のリスクが増大しているという事実である。
津波の再来?
フクシマの現状を考えると、東京電力とその同調者らがなにを企んでいるのか、想像するのは不可能だ。だが、前方に待ち受けているものは、新たな津波かもしれない。慶應大学の金子勝が83日に刊行された岩波ブックレット『原発は火力より高い』で指摘するように、独占公益事業はおそらく破産するだろう。彼は慎重な詳細さをもって検証したうえで、フクシマとその他の問題のコストをすべて合算し、電気料金に転嫁すれば、核エネルギー発電コストは1キロワット/時あたり、驚くべき23.5円となり、火力の89円を優に凌駕し、かつて2004年に計算された57円とは雲泥の差となることを示した。
金子の出版物は、それ自体が書評を献じるに値するが、この問題検証のための小論ではスペースの関係上、とりあえず割愛しなければならない。財政専門家である金子は、民主党の前政権において、核エネルギー、その他のコストを検証する委員会の委員だった。彼の著作は、残った原子炉のそれぞれについて、安全対策費、廃炉費用、その他の発電所運営費概算に関連する費用を含めて、条件を検証する。彼は、この原子炉ごとの分析をもっと大きな論評フレームワークに埋め込み、いかに独占事業体が1990年代の不良金融機関に等しいものになってしまったか、その実態を際立たせている。
金子が焦点をあてる中核となる問題は、駿河に2基、東海村にもう1基、3基の原子炉を所有する日本原子力発電のそれである。敦賀2号炉の命運は、20135月の調査が真下に活断層が存在すると結論づけるにおよんで、おそらく封印されたようである。規制庁はこの調査結果を了承してしまった。日本原燃は規制庁の見解に異議を唱えているが、日本の規制法規は、活断層の上に原発を建造することを禁じており、したがって、規制庁が裁定を維持する場合、原発の解体が要求される。
日本原燃の収支は、他の核依存事業体に深刻な影響をおよぼす。日本原電は収入全額が原子力頼りである。だが、たとえ保有する原子炉が停止したままでも、独占事業体5社と締結している(東京、東北電力は東海2号炉から、関西、中部、北陸電力は敦賀原発からの)電力供給契約によって、「基本料金」の支払いを受けるので、存続可能である。
日本原電が敦賀2号炉の廃炉を余儀なくされる事態になれば、同社はこの原発分の基本料金を受け取れなくなる。すると同社は、人件費、減価償却費、その他の関連固定費をすべて自前で賄わなければならなくなる。敦賀1号炉は建造後43年経過しており、築40年以上の原子炉に要求される、高額になる特別検査と安全対策の対象になることを念頭に置かなければならない。おまけに、同社の東海2号炉は築34年であり、その再稼働は地域住民の強硬な反対にあっている。日本原燃は保有原発のどれとして、再稼働申請をいまだ果たしえないでいる。
電力事業者は廃炉費用を積み立てているが、これだけでは経費を賄うのに全般的に不十分である。67日の自民党作業部会のために経済産業省・資源エネルギー庁が用意した報告によれば、潜在的に稼働可能な日本の原発50基のうち、3基が建造後40年以上を経過している。これら3基は、日本原電の敦賀2号炉および中部電力の浜岡12号炉である。中部電力・浜岡1号炉の廃炉費用は323億円と見積もられているが、中部電力の積立金は228億円にすぎず、94億円の不足分は放置されている。浜岡2号炉の不足分は67億円、敦賀1号炉のそれは38億円である。ところが、敦賀2号炉となれば、不足分は237億円の巨額になる(注1
金子の調査によれば、敦賀2号炉が廃炉を余儀なくされると、日本原電は維持費とその他の固定費のざっと700億円を節約できることになる。だが、同社の財務報告を見れば、その惨状は明白である。20133月時点で、同社の損失はざっと1148000億円となっており、資本金に165億円の巨額を食い込んでいる。同社は単純にいって、廃炉費用を吸収する資金をもたず、だからこそ、最終決定の機先を制しようと頑張っている。
金子は、単純にいって、このような企業には責任をもって核資産を管理する手段と意欲が欠けているという。じっさい、最近の報道がこの分析を裏付けている。規制庁が敦賀2号基敷地内のプールに貯蔵されている燃料棒の地震リスクを懸念して、日本原燃に調査を依頼した。地震による冷却材喪失という事態において、それぞれが複数の燃料棒を含んだ1700の燃料集合体が損傷しかねないと危惧したのである。だが、日本原燃はなんのリスクもないと否定し、燃料メルトダウン・シナリオは「燃料集合体のあいだを流れる空気が冷却材の役割を果たすので、回避できる」と主張した。日本原燃自体が、燃料被覆の温度が420℃まで上昇しうると認識しているという事実にもかかわらず、これである。日本原電は真っ赤な言い逃れを弄して、地震動が集合体の位置を動かし、風前の灯火のような安請け合いを打ち消す可能性を考えていなかった(注2
だが、深刻なトラブルに見舞われているのは日本原電だけではない。同社の財務は、同社と契約関係にある独占事業体5社と緊密に結びついている。東京電力は同社の筆頭株主である。おまけに、電力会社の債務残高として、投資や債務保証の100億円、それに目下、建設中(事業保留中)の敦賀34号炉のために注ぎ込んだ、ざっと130億円がある。金子は、電気事業連合会の八木誠会長が「廃炉などの費用の取り扱いは国と協議しながら検討していくべきだ」が表明して、いかに事態が絶望的であるかを明確にしたと指摘する(注3
金子の見解によれば、政府からの援助を求める、この露骨な申立ての意味するものは、日本のゾンビ企業の古典的な様態である。1980年代バブル経済の崩壊につづく1990年代から2000年代初期にかけての焦げ付きローンの長編物語において、あらゆる指標が国庫からの点滴注射頼みを示していたのとまったく同じである。じっさい(62日付け朝日新聞によれば)、経済産業省は、敦賀2号炉の廃炉経費を捻出するために、数年間にわたる電気料金上乗せ分を充当することを提案した(注4。金子にとって、このような手法は、破産企業が寛容にも助成金をあてがわれ。その結果、損失がただ単に膨らみ、不必要にも――また高上りにも――金融危機を長引かせた1990年代の再来である。
他に道はないのか?
いかなる政治体制であっても、本能的な反応として、できるかぎり不可能になるまで、大掛かりな修正を避け、なんとか突き抜けようとする。だから、バブル後の日本は、なにをすべきかについて優柔不断なまま、たっぷり10年間を失ったのだ。これが、EUが窮地にあることの核心となる政治的な理由である。そしてこれが、フクシマ後の日本の電力供給体制が混乱したままであることの理由である。731日付けロイター記事は福島第1の混乱を概観しているが、ここに見たとおり、問題は全国規模のものであり、迅速で系統だった解決を必要としている。
息を詰めて、断固たる行動を待っているわけにはいかない。日本の高価な電気料金が再生可能エネルギーと省エネルギーの普及を促進させているという事実に目を向けよう。アメリカの下院・共和党議員たちは白熱電球擁護のために籠城している(注5が、日本では、天上照明器具販売の90%はLEDであり、日本は世界LED需要の40%を占めている。急増するエネルギー供給企業による競争、トヨタなど大企業の発電ビジネス参入、ICT(情報通信技術)革命の加速、規制緩和の脅威、その他の要因にもよって、現状が再構成され、プレイヤーが交替しつつある。東京電力、その他の独占事業体でさえ、生産現場におけるエネルギー効率向上に関する分析と助言を企業に無料提供するまでに追い込まれている(注6。だが、最善の希望は、核の遺産を国有化し、適法な管理を実施して、公共事業体の重荷を軽減し、わたしたちの側としてはリスクの幾分かを緩和してもらうことにある。
翻訳:井上利男 @yuima21c
(注)
1.   数値に関して、201368日付け産経新聞記事「廃炉費用が不足 経産省資料 40年超3基で199億円」を参照のこと。
2.   On this, see Tsuruga plant operator says spent fuel in storage pool absolutely safe, Asahi Shimbun, August 1, 2013.
3.   八木会長のコメントは、2013523日付け産経新聞「日本原電、徹抗戦も崖っぷち 廃炉で経営危機の恐れ」参照のこと。
5.   On this, see Keith Dawson, US House Blocks Enforcement of Energy Standards, Again, Allied Lighting, July 16, 2013.
6.   2013713日付け日本経済新聞「東電、工場向け省エネ診断を無償で 顧客離れ食い止め」参照のこと。
(訳者注)
本稿原文中の疑問点を筆者に問合せ中。
【筆者】
アンドリュー・デウィットAndrew DeWit は、立教大学・社会学部政策研究領域の教授、ジャパン・フォーカス世話人。飯田哲也、金子勝とともに、Jeff Kingston 編“Natural Disaster and Nuclear Crisis in Japan”所収の“Fukushima and the Political Economy of Power Policy in Japan”を共著。
【推奨される引用・転載クレジット】
[原子力発電_原爆の子]アンドリュー・デウィット
東京電力の闇のなかで――核エネルギーがこうむるフクシマの遺産
Andrew DeWit, "In the Dark With Tepco: Fukushimas Legacy for Nuclear Power," The Asia-Pacific Journal, Vol. 11, Issue 30, No. 3, August 5, 2013.
【アジア太平洋ジャーナル関連記事】
John A. Mathews, Mei-Chih Hu, Ching-Yan Wu, Concentrating Solar Power Chinas New Solar Frontier
John A. Mathews, The Asian Super Grid
Peter Lynch and Andrew DeWit, Feed-in Tariffs the Way Forward for Renewable Energy
Sun-Jin YUN, Myung-Rae Cho and David von Hippel, The Current Status of Green Growth in Korea: Energy and Urban Security
Son Masayoshi and Andrew DeWit, Creating a Solar Belt in East Japan: The Energy Future
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2013年8月5日月曜日

【#海外論調】フクシマ――リアルタイム生態研究フィールド


フクシマ――リアルタイム生態研究フィールド
だが、生態学者は資金不足に悩む
Fukushima offers real-time ecolab
But ecologists say they need more funding.
イーウェン・キャラウェイ 2013616
Ewen Callaway 16 July 2013
翅に異常のあるZizeeria maha 
CHIYO NOHARA & JOJI M. OTAKI

20113月、日本の東岸にマグニチュード9の地震が勃発し、フクシマ核惨事を引き起こしてから数刻後、マルタ・ウェインは日本にいる同僚たちにEメール送信した――まずは無事を確かめ、次いで計画を練るためである。
ウクライナで起こった1986年のチェルノブイリ原子炉メルトダウンの場合、研究者たちは低線量放射線による生態学的な影響に関するデータを収集する機会を逸してしまった、と彼女はいう。10年にわたり、無所属の科学者らは現場に近づくことがかなわなかった。今回の場合、「時宜を逃さず研究し、そのような惨事がもたらす実際の結果に関するデータをえることが重要であると、わたしは即座に考えました」と、ゲーンズヴィルのフロリダ大学・集団遺伝学者、ウェインはいう。
先週、ウェインほかのフクシマとチェルノブイリを研究する生物学者たちがイリノイ州シカゴで開催された分子生物学・進化学会年次大会に集結し、それまでに学んだ知見――およびこれから必要と思われる諸研究――について報告した。彼らは、チョウやツバメといった動物に対する低線量放射線の効果に関する自分たちの研究が人間に対する低線量放射線の影響を理解することに関連し、ひいては放射能放出に対する政府の適切な対応を促すと信じている。
ニューヨークのコロンビア大学・放射線研究センターの所長、デイヴィッド・ブレナーは、人に対する放射線被曝の効果に関する理解は貧弱であるという。彼とその同僚らは、米国大統領の主席科学顧問、ジョン・ホールドレンに宛てた318日付けの書簡において、この問題に関する包括的な研究戦略を要請した。「わたしたちは、当て推量にも等しい根拠にもとづいて政策決定を下さなければならないというジレンマに陥っています」と彼はいう。
ブレナーはリスク――主として癌の危険性――は小さいと付言する。ジュネーブを本拠とする世界保健機関(WHO)の20133月付け報告は、福島県内で確認されるホットスポットでは、甲状腺を冒すものなど、子どもたちの稀な癌のリスクが全般的に少しばかり増加すると予測する。だが、ヒトを対象とする疫学研究の大半は規模がじゅうぶんでなく、稀な健康状態の発現率の小さな増加をすくいとることができない。
ウェインなどの科学者らは、必要な資金さえ確保できるなら、ヒト以外の種を研究することによって、知見の欠陥をいくらか補うことができると考えている。これは、核エネルギー利用にまつわる議論において、放射線の効果が発熱した論争の主題になっている状況で、極めて困難であることが実証済みである。
フクシマに関するデータがあるにしても、散発的――しかも異議の的――である。一陣の突風に比すべき研究が、チョウを対象として実施されている。大瀧丈二は琉球大学の生態学者であり、10年以上にわたり、日本種、Zizeeria maha(ヤマトシジミ)に関して翅の斑点配列やその他の形質を研究してきた。大瀧はシカゴの学会で研究成果を報告したさい、「わたしの研究を核事故の役に立てるようになるとは、夢にも思ったことはありません」と語った。だが、フクシマがメルトダウンしたあと、研究室の大学院生の二人が大瀧に、放射線効果の環境指標としてチョウに発現する異常を調査する決心を促した。
地震から2か月後の20115月、チョウが羽化するころ、研究チームは福島に行き、同年9月に再び行った。彼らは原子炉から20ないし225キロメーターの範囲の各地でチョウを採集した。5月に採集した昆虫には、ほとんど異常は見られなかったが、研究室で育てた子世代では、翅の形態異常、不自然な眼状斑点など、多くの異常が発現し、多くのものは蛹のうちに死んだ(A. Hiyama et al. Sci. Rep. 2, 570; 2012)。9月に採集したチョウでは、子孫の半数以上に上記の異常があった。
大瀧のチームは研究室で、フクシマに近いチョウが受けたのと同程度の線量の放射線をチョウに照射した。子孫に同じ問題が生じた。「別の説明も可能でしょうが、放射線が死亡と異常を引き起こしたとする仮説が最も合理的であるようです」と大瀧はいう。
コロンビア市、サウスカロライナ大学の進化遺伝学者、ティモシー・ムソーは、もっと多くのこのような研究が痛切に必要とされているという。彼は今週、メルトダウン以降、3期目の野外調査に着手し、鳥類、昆虫などの小動物を観察するためにフクシマに向かう。彼の研究チームは1期の研究のあと、何種類かの昆虫の生息数激減と一部の鳥類の生息数の減少に気づいた(A. P. Møller et al. Environ. Pollut. 164, 3639; 2012)。彼は、3年間の観察成果をまもなく発刊することを願っている。
大瀧は、資金の大部分を民間財団に頼らなければならないといった。「たぶんこれは、政治的に非常に微妙なテーマなのだと思います」と彼はいう。ムソーはドイツのバイオテクノロジー企業から資金提供を受け、現在、フィンランド政府から援助を受ける研究者たちと共同で研究している。だが、米国政府の助成金は確保が難しいと彼はいう。エネルギー省が低線量被曝に関する資金拠出を大幅に停止し、国立科学財団および国立衛生研究所がこのテーマに関する研究の助成をほとんど授与していないのだ。「どのような研究であれ、実行していると思える最良の人びとは、冒険を厭(いと)わず、機会に敏感で、かつ独立心旺盛なのです」とムソーはいう。「彼らはかなり柔軟な姿勢で事に臨み、公的支援を受けず、自力でやっているのです」
他の科学者らはフクシマ核惨事が生態系におよぼす悪影響に関する報告に異議を唱える。翅の形態など、チョウの形質は、地理的条件によって当然にも変化するので、大瀧の研究には欠陥があるというのである。「この研究はセンセーショナルな主張をしており、このような比較的低線量の環境放射線が深刻な健康リスクをもたらすと地域住民を脅すために使われるべきではありません」と、ワシントンDC、ジョージタウン大学の分子放射線生物学者、ティモシー・ジョーゲンセンは大瀧の2012年論文に対するコメントに書いた。フクシマ核惨事1年後の鳥類への害に関するムソーの報告は、サンプリング(試料採取)周期が1期に留まり、基本データが欠けていると批判されてきた。
英国マンチェスター大学の疫学者、リチャード・ウェイクフォードは、フクシマ核惨事の効果に関する生態学研究が低線量放射線に被曝するヒトの健康効果を明らかにする取り組みと同じような困惑をもたらすことになるだろうと考えている。人間が避難したあと、多くの生態系とその生物種は改変したのであり、とりわけ放射線は関係ないと彼はいう。
ウェインは、ポスト・フクシマ核惨事研究の質的向上を図るために、もっと多くの支援が必要だという。彼女とその同僚たちは、データ収集・分析・共有のためのよりよい基準の確立を期して白書を執筆している。「もっとデータがほしいからといって、核惨事の発生を望むのではありません」と彼女はいう。「しかし、起こってしまったからには、わたしたちはそれからもっと学ぶべきです」
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